【SS】切手

 手紙を出す。宛先は僕の名前があって、中には白紙の便箋が入っている。繰り返し封筒に入れた便箋の端は折れ曲がったり汚れたりしているけれど、目的は手紙を出すことだから、中身がどういう状態であろうとさして問題じゃない。
 郵便番号、住所、宛名まで書いた封筒をちゃぶ台に広げれば、兄弟たちは自然と席を外す。見ていても面白くない、とは長男の弁である。
「楽しいの? 切手集め」
「んー、パズルみたいな感じ……」
「あ、そう」
 報告しろとは言うものの興味なさげにあしらうのは三男の常だ。興味を持ってほしいとも、一緒にやってほしいとも思わないけれど、理解出来ないという視線を向けられるのは少々いただけない。だから友達居ないんだよ兄さん、とは言わない。弟の気遣いだ。
「兄さん、いつものお願い」
「ああブラザー、お安い御用だ」
 切手シートから一枚を切り離し、兄さんに手渡す。
 カラ松兄さんは赤い舌を出し、滑らせるように切手の裏側へそれを押しつけた。糊が馴染むまでしばらく置く間、それを貼るのを待っている風を装ってじっと見つめている。不自然に思われないように気を付けながら。
「とどまつ」
「封筒ここ、はい」
 不意に名前を呼ばれ、表情を変えずに封筒を手渡す。カラ松は慣れた手つきで切手を真っ直ぐそこに貼り付け、指先でしっかりと抑える。剥がれないように、絵柄を確かめるように。
「これ、何枚目だ?」
「6枚目、あと4枚」
 切手のシートは残り4枚が切り離されず、繋がったままある。
「いちいち封筒からはがすのは大変だろうに、よくやるなブラザー」
「僕はシートに戻すのが好きだから、そんなに苦じゃないんだよね」
 カラ松の舌の上に乗った切手が、僕に宛てて帰ってくる。それが10通。繰り返してもう何年か、集めたシートの数、送った封筒の数、切手がそれを教えてくれる。その数、僕はあの赤い舌に触れられずに、ただ見ているだけ。 

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