endless(massaka)summer
夏はどうやら終わらない
膝を突き合わせたまま、じっと黙りこんでいる。日が落ちて、ひぐらしの声も随分遠くなった。遠くでちりちりと風鈴が揺れている。
お互いの手紙に触れないまま寝て、さあ現実に戻ろうと目覚めた今朝。僕らは変わらず、祖父母の家にいた。そのうえ、枕元には即物的なセックスを想起させるもの――例えばゴムとかローションとかそういうもの――が、しっかり並べられていた。先に起きたカラ松が片付けたらしいのだが、僕とカラ松が少しよそ見をした瞬間に湧いて出る。何度も同じ手紙を燃やしたように、だ。
双方の思いが通じたのなら、夢は終わりだろうと思っていた。手紙とは別に何度も現れるものが出来てしまったのであれば、まだ夢は続くということに他ならない。
手紙は、互いに渡せば良かった。だがセックスと合ってはそうはいかない。
気づかない振りをして、お互いに背中を向けていた。知らないふりは出来ないとつぶやいて、やっとぽつぽつと言葉を交わし始めたのが昼過ぎのこと。そして、赤い夕暮れはとっくに沈み、日中の暑さを忘れてしまったみたいに僕たちの傍にいる夜の気配に、覚悟を決めろと言われているような錯覚を覚えた。
問題は、それを僕が望んだのか、カラ松が望んだのかということだった。二人で顔を見合わせて、童貞らしくどぎまぎした空気の中でゴムやらローションを捨てさる時の空気といったら、居た堪れなさに思わず尻を出しかけたほどだ。今もジャージのゴムを握りしめている。
背中にべったりと貼りついたシャツに耐えられなくなって、後ろ手で裾を引く。滲む汗を手のひらで拭って、シャツの腹で拭った。
どう切り出せばいいかわからないままずっと保たれていた沈黙を先に破ったのは、カラ松の方だった。
「……俺、その、あれ使う……って、考えたことあるんだ」
いつものようにまっすぐ伸びた背筋と、嫌になるくらい目を見ながら話す癖は健在だけれど、一瞬かち合った視線がすぐに逃げた。
「……だ、かれることしか、考えてなかったから、その」
時々つっかえながら言うカラ松の声に、胸が詰まって、思わずその口を手で押さえた。続きを聞いていられなかった。
もしかしたら、両方が望んだことなのかもしれなかった。その先の言葉は、聞かなくても十分に理解できた。
「して、みようよ……カラ松」
声が掠れた。ごくり、と生唾を飲み込んだのはどちらか、それももうわからない。
ゆっくりと頷くカラ松から手を離す。そのまま頬に手を添えて、震える唇を重ねた。かさついた感触が表面に触れて、乾いているのだと知った。犬や猫がするように、思わず舌が出た。べろりと下唇を舐めれば、驚いたのか慌てた口が開く。
舌を、触れ合わせたらどうなるのだろう。
ぼんやり浮かんだ考えを、そのまま実行に移す。カラ松の目がぎょっとして開いたのが見えたけれど、触れる熱に頭がぼうっとしてくる。
「はっ、はあ、からまつ……」
「……っふ、んぅ」
舌が絡むだけでびりびり痺れるみたいな感覚がある。こんなに熱いんだって、体に触れるたびに思う。呼吸が覚束なくて、溺れるみたいにして唇を離せば、互いの荒い息だけが夏の凶悪な空気に似ている気がした。
「あのさ……聞いておきたいんだけど」
「……何だ?」
「さっき抱かれることしか考えたことないって……」
かっとカラ松の顔が赤く染まる。視線が泳ぎ、言葉を選ぶように口元が僅かに開いて閉じ、それから、興味があってと小さく声が帰ってきた。
「その、色々……調べてみたんだ、そうしたら……ネコって言えばいいのか? そっちもキモチイイとかで……」
気持ち良いのは嫌いじゃないし、むしろ好きだから、それにお前にされるんなら何でも嬉しいと思ってしまうし、と言う兄の顔は、何だかいつもより頼りない。今まで黙っていた秘密を言ったから。してほしいことを、包み隠さず。
僕に抱かれたがっている、ことになる。
しゅ、と頭から湯気が出たような気がした。お互い熱が上がっているのは同じようで、いよいよシャツが鬱陶しくなって脱ぎ捨てる。ばさりと床に落ちるのを見て、カラ松はふっと笑った。余裕ぶっているのだろうが、その笑みはぎこちなくて、格好つけなのはすぐにわかる。僕だって同じくらいびびっているのも確かだ。
「やる、か?」
「……やりたくないんなら、結構ですけど」
やらなきゃ多分、この夢の中から出られないというのはもう十分にわかっている。
「そういうわけじゃない、ただ……なんというか」
カラ松はタンクトップを脱いで、僕のシャツの上にばさりと落とす。そのまま、じっと僕を見た。
「せっかく二人しかいない時間なのに、終わってしまうのが……惜しいなと思って」
ため息と同時に、僕の肩をとんと叩く。布団はずっと敷きっぱなしで、少し離れて並んでいた客用布団のうち片方にカラ松は座り込んだ。そのまま、目で僕を呼んでいる。
惜しいと思っている。でも、終わらせなくてはいけないことも理解している、ということか。視線を落とす。自分の柔らかな腹のラインを見ながら、別に変わらないのにと思った。
「……夢から目が覚めたところで……二人になればいいでしょ、簡単だって……」
隠しておくべき想いが露わになってしまったのだから、遠ざける必要がないのだ。少なくとも、僕は。
「そうか」
カラ松はぱちぱち瞬きをして、そうか、そうだよな、なんて何度か繰り返す。それから、顔を真っ赤にして、僕に手を伸ばした。抱っこを強請る子供みたいに。ずっと昔、本当に誰が誰だか自分たちでもわからなかった昔に、互いの熱を確かめていたのと同じに。
「嬉しい、嬉しいな、一松」
「……あ、そう……」
布団の上でも膝を突き合わせるのはもう嫌だったから、僕は思い切ってカラ松の肩を押して、そっと布団に倒した。カラ松も押されたまま、布団に倒れる。好きな人が自分の腕の中にいるというのは、思った以上にどきどきがすぎる。
で、これから、どうすればいいのだろう。童貞である。女の人と付き合ったことだってない。AVの知識がせいぜいだ。
「わかるのか?」
「わかるわけないでしょ、童貞だもの。あんたちがうの」
「童貞ではあるが」
ふっと目を逸らす。もじもじと膝がこすり合わせられるのを見ていると、もしかしてという天啓が降ってきた。
「もしかしてさあ、……した?」
何を意図した質問か、わからないわけがない。カラ松は照れながら、うん、と頷いたのだった。目眩がした。確かに気持ちいいって聞いたら試してみたいだろうけど、だからって童貞捨てるより先にアナルに目覚めることなんてあるのだろうか。あるから、こうなっているのかもしれないけれど。
「……じゃ、色々教えてよね……」
僕はローション何に使うかなんて、オナホ以外じゃ知らないんだから。そう言えば、カラ松は自信満々に頷いている。
下敷きにした身体に覆いかぶさるようにして唇を奪った。震える吐息が一瞬漏れて、ふっと互いに笑いを交わす。触れればこんなに簡単なんて、知らなかったのだ。
「ん……っ、は」
普段の兄からは想像出来ない、細い声が漏れた。鼻にかかったような甘い声音に耳の奥がざわつく。息継ぎだってうまく出来なくて、苦しくなるたびに離れ、けれどまたその吐息を奪うのを繰り返す。舌が触れる、貪るように奪う、唾液が溢れて落ちるのすら何だか、よかった。
「ぃ、ちま、ふっ……、ん、ん」
僅かに上がった抗議をにじませる声、胸を押してくる両手。ぺた、と汗ばむ素肌にあたる手はひどく熱い。だるくなった舌を開放して一息つくと、カラ松が苦しげに呼吸を繰り返す。窒息しかかったらしい。べとべとになった口元を拭って、せわしなく上下する胸に手を置く。男って、胸、感じるのかは知らないけど。
「さわっていい?」
「あっ、待て、一松……」
静止する声を待たずに、胸に耳を当てた。ど、ど、と鼓動がうるさい。僕もきっと、負けないくらいうるさいけど。
「……何すると思ったの?」
「む、胸、……噛まれるかと思った」
馬鹿だね、と笑う。噛むんじゃなくてさ、もっと、あるじゃない。同じAV見たことだってあるはずなのに。
鎖骨を指でなぞる。肩から身体の内へ、そして反対側の鎖骨は内側から外へ。肩口に顔を埋めて、首筋に吸い付く。残る痕に、ああ、案外簡単につくものなのだと知る。
「ッあ、俺もしたい、ラヴ・マーク!」
「キス・マークじゃないの? 後で、後でな」
ぎゅっと俺の頭を抱くクソ松の腕をタップして外し、カラ松の胸に手を当てる。自称そこそこ鍛えている身体だが、胸筋に弾力があるわけではない。どちらかというと、ふわっとしている。その先の突起をちょんとつつくと、唇を噛んで声を堪えた。これは、こっちも触ったりしていると見てよさそうだ。
「……お前さ、一人で色々やってたんだね」
谷間をすうっと指で撫で、ちらりとカラ松を見やる。責めているわけじゃない、むしろ何もわからない僕がやるより気持ちよくなれる確率はあがる。だけど、何というか、そこが良いという発見も一緒にしたかったと思うのは贅沢なことだろうか。
「……お前とするとは、考えていなかったから……その、まあ、妄想くらい……許してくれてもいいだろう?」
似たようなことは、僕もしていたというのは棚に上げて、わざとらしく拗ねたふりをする。ぴんと尖ったそれを指先でつまんで、指の腹をつかって転がして、反対のそれに唇を寄せる。一人で触るのは出来ても、舐めるなんてのは出来なかっただろう。べ、と舌を見せつけるようにしてその尖りを口に含めば、大げさなくらいにカラ松の身体がびくりと震えた。
「ッぅ、あ!」
赤ん坊みたい、絵面がシュールすぎる、なんて考える頭は今止めておきたい。ちゅ、ちゅ、と吸うたびに音が出るのが、何というか、ただ恥ずかしい。けど、カラ松が自分の手を口に当てて、短く息を吐いている。時折混ざる微かな声からして、どうも感じていると見て、良いらしい。妄想じゃなくて、今ふれあうことでカラ松を良くしているんだと思うと、ほんの少しだけ自信が湧いた。爪の先くらいだけど。
「う、いち、一松っ、そこばっかり……!」
「たのしい」」
「おっぱいなんか、出ないんだぞ……?」
弱り切った声に、つい笑いがこみ上げる。格好つけてないときのカラ松は、なんだか声がふにゃふにゃしていて、かわいいのだ。
「……じゃあ、その……こっち、どうすればいいわけ?」
女の人には、受け入れる器官がついている。元からそうだ。じゃあ男はどこで、と考えたときに答えは一つしかない。
「……ん、じゃ、脱がしてもらっていいか」
押し倒していた身体から離れて、カラ松のハーフパンツのゴムを掴む。そのまま引っ張っても、びよびよとゴムが伸びるだけだ。
「クソ松」
「あ、おう」
ぺちんと腹を叩くと腰が上がった。やっとで脱がすと、下着が僅かに持ち上がっていることに気づく。つい手が止まってしまったけれど、自分も同じようなものだ。
「これも?」
「……出来ないだろ」
脱がないと、と言う声は恥じらいが過ぎてぶっきらぼうになってしまっている。勃ってるけど、なんて言うのは野暮だ。
下着に手をかけて、それも脱がす。ハーフパンツと一緒に丸めて布団の外に投げた。
「ローション使う……」
カラ松が枕元を手で探る。お節介のように出てきたそれらを実際に使うのは癪だけれど、使わなければ出来ないことらしい。キャップを開けて、僕に渡す。僕は渡されたローションとカラ松を交互に見て、首をかしげる。
「お前に、してほしい」
「……お、俺、初めてだよ?」
「俺だって人にしてもらうのは初めてだ」
「うまくできるかわからないけどそれでもいいの」
ぷっと吹き出して、、カラ松は上体を起こす。しょげる俺の頭をくしゃくしゃと撫でて、ローションのチューブをひっくり返した。ぼたぼたと垂れるローションが僕の両手から溢れて、落ちて、布団を汚す。
「最初からうまく出来るわけないだろ、手紙だって三回燃やしたんだから」
「……そりゃ、そうだけど、カラ松が痛いのとかは……」
頑丈だからいいんだ、と笑ってカラ松は再び横になる。枕を腰の下に潜らせて、膝を立てた。ゆるく勃ちあがるそれは、期待なのだろうか。
「それで、な、ここ濡らして」
目眩がしそうだ。いや、している。くらくらしながら、後孔へ指を添わせる。まず濡らす。ローションをくるり、くるりとそこへ撫でつけていくと、カラ松が細く息を吐いた。
「もう、いいぞ……そしたら、指……人差し指、入れてみてくれるか? 中は……もう、きれいだから」
排泄器官である。本来は。そこに突っ込むのだから、洗浄が必要なのだ。今更知った。カラ松は、知っていた。
「……風呂、長かったの、そのせい?」
「ン~……」
ごまかしたから、そうだ。負担を強いている。
「あのな一松、俺だってしたいからするんだぞ」
本当なのかと、言葉で確かめられないのは僕の弱さだ。
「いちいち止まってちゃ朝になっちゃうだろ」
ああそうだ、ヒグラシの声なんてとっくにしなくて、鈴を転がしたような虫の声しかしない。
「焦らせたいわけじゃ、ないんだ……」
「ごめん」
手の中に広げたローションがもうなくなって、再び手を伸ばす。案外にさらりとしたそれを手に落とす。指先に垂らす。一人で止まっていたらだめだ。何しろ僕たちはもう、気持ちを交わしてしまったから。僕の手を引っ張って、前に進ませてくれるのは、カラ松の方だ。いつも。今だって。
「……で、あの、指……いれるけど」
「ああ、うん……」
固く窄まったそこには容易に入れるとは思えない。カラ松は少しコツがいると言って、何度かゆっくり呼吸をした。今、というタイミングを図っているらしい。わかるもんなのだろうか。孔に触れた指先をひだの中心に当てる。カラ松の呼吸が一瞬止まったのに合わせて、ゆっくりと潜らせた。ローションの滑りに助けられてか、すんなりと飲み込まれる。
「……っふ、ふぅ、うー……」
「……すげ」
漏れた声は、ただ何も考えないまま出た言葉だった。妄想よりずっと熱くて、ぐねぐねと蠢く内側の感触に浅く抜き差しを繰り返した。跳ねる水音がいやらしい。滑りが足りなくなったらローションを足して、指を抜き差しするのにしばらく夢中になる。
「い、いち、一松?」
「なあこれ、指……増やしてみて、いい?」
「いい、けど」
お前鼻息あらくて怖い、というカラ松の言葉は無視して、人差し指につづいて中指を差し込んで中をぐるりと探る。にちゃ、にちゃ、と滑った音がする。
「あ、あ……っ、いちまつ!」
「何?」
内側が指に絡みついている。ひだの感触を指の腹で探っていたら、びくりとカラ松の腰が跳ねた。ちょうど、勃ち上がってたらたらと先走りを垂らし始めたカラ松自身の奥といえばいいのか、裏といえばいいのか、そのあたりだ。
「そこ、ぁ、は」
「だから、何……」
そこが良いのか、悪いのか、詰まる息では確かめられない。もう一度その辺りを指で探れば、あからさまに甘い声が漏れた。良い、ようだ。ほっとする。
「い、いち、だめだ……」
「いい?」
わざとらしく声を作って、ゆっくりと中を撫でる。カラ松が良いあたりは、熱い中でも少し感触が違う。腫れている、みたいな感じだ。
「ひとりだけ、よくなっちゃう、からあ!」
顔を真っ赤にして叫ぶ言葉に、思わず下半身が熱くなった。お兄ちゃんぶった態度が消えると、行為に溺れていて必死みたいな感じに見えて、いい。
「お前も、いい加減脱げよ……一松ぅ」
縋るみたいな言い方が、俺には効く。そういえば突っ込むんだった、これを、と思い至って急に身体が熱くなる。うねる内側、指先が締め付けられる感触。もういけるのだろうか、不安になってもう一本指を足してみる。広げるように中を探れば、カラ松が涙を浮かべた目で俺を睨んだ。
「いいからッ、脱ぐんだ!」
「はぁい……」
おとなしく指を抜いて、片手でゴムのゆるくなったジャージと一緒に下着まで脱いで布団の外に放り投げる。下着なんかぐしょぐしょで、ジャージも汚してしまった。後で洗うの面倒だな、なんて熱っぽい頭で考えて、すぐに忘れた。
カラ松は枕元のコンドームの箱を開けて、ひとつ取り出して、ぽいと僕に放り投げて寄越す。ひとりでつけるのは慣れっこだ。ああ、するんだな、本当に。
「……あの、さあ」
いざ装着を終え、カラ松の立てた膝に手をかける。潤んだ目、赤く上気した頬、よく知っている兄の顔が、今は欲に染まっている。きっと僕も同じような顔をしている。喉がからからに乾いていた。生唾を、ごくりと、飲み込んで。
「うん、好きだぞ」
「まだ何も言ってない……」
「お前は?」
「……」
好きだよ、好きだけど。セックスのときに、挿入する直前でそれを聞くって僕はどれだけ確認するつもりなんだって聞くのをやめたのに。先回りされたうえ、次に僕がいう言葉まで決まってしまった。カラ松がウィンクをする。わかっているぜ、みたいな。言わなくちゃ、言わなくちゃと思うと言葉って喉に引っかかってしまうのは何故だろう。
「……いちまつ」
ゆっくりでいいから、と宥められるのが逆に辛い。違うでしょ、ここはもう、好きだって叫んで、それで童貞卒業って流れじゃないの。
「すき、だよ」
口に出した瞬間、喉が詰まった。しゃくり上げそうになるのを堪えた。涙は、我慢出来なかった。何年だろう。一生これを黙って生きていくんだ、いずれ忘れるんだと思っていたのに。カラ松は目を細める。それを待っていた、とばかりに。
「一松、な、しよう」
「う、ん」
この状況でも萎えないどころか、やる気満々臨戦態勢なのが少しだけ笑える。ロマンと性欲は別なのだ。解したカラ松の後孔に自身を宛てがって、ゆっくり突き入れる。
「ふっ……う、あー……」
先端が飲まれただけなのに、ぶるりと身体が震えた。
今までに、こんな熱さは知らない。カラ松も同じように熱っぽい息を吐いてシーツを掴んでいた。白くなる指先を掬って、指を絡める。照れくさい。でも、それよりずっと、その熱が欲しかった。
「ぁ、あ、いち、……っ!」
自身をすべて収めて、息を吐いた。きつい。締め付けるというより、絞り上げるみたいな内側の感触に、カラ松の苦悶の表情が見えて、お互い馴染むまでしばらく動かずに視線を交わす。
「は、はっ、案外……あっさり、だな?」
「何言ってんだよ、これから……する、し」
ずるりと自身を引き抜き、最奥へ突き上げる。ひ、と引きつった声が上がった。抜ける直前まで引いて、また奥へ。ゆっくりだったそれを、段々早くしていく。弱く握っていた手、カラ松の爪が徐々に食い込んでくる。しがみついている。
「く、うあ、あー……っ!」
声が、段々大きくなってきた。最初は我慢していたんだと思うと、もっとその声を聞きたくなる。さっき指で探ったカラ松の好きなところを狙って突き入れれば、びくんと身体が跳ねる。感じている。僕のすることで、カラ松が。
「いぁ、あっ、そこ、そこぉ、いいっ……!」
「から、まつ、カラ松」
気持ち良すぎるのか、いやいやするように首を振るカラ松の肩口に噛み付いた。ぴたりと肌を合わせると、互いの汗で身体が滑る。汗だくだから余計に。
「すき、すきだ、からまつ、おれ……」
安い愛の言葉なんて一生縁がないはずだった。それが今、言わずにいられなくなって、次から次と溢れ出している。
「う、ああ、おれも、好きだぞっ」
繋いだ手がぎゅっと強く握られた。カラ松の熱に溺れながら、ぼろぼろの言葉を吐き続ける。涙が零れて落ちた。カラ松の頬に伝う涙を見て、同じ涙なんだと思ったら、背筋にぞくりと悪寒に似た欲情が走る。堪らなくなって一際深く突き入れて、熱を貪った。
「あ、ああっ、おれ、おれ……もう……!」
「ぼくも、ぼくももう、ダメ……」
びくびくと身体を震わせるカラ松の内に、搾り取られるように僕もまた達した。瞼の裏で星が瞬く。荒い息、お互い溶けた視線を絡ませて、どちらともなく唇を寄せた。まだ内側にある自身を出してすらいないのに。
「いちまつ、上手だったぞ?」
「……あ、そ……?」
「なあ、だから……」
夢から冷めるまで、もう少しやっておかないか。耳元に囁く兄の声が欲にとろけて甘い。一もにもなく頷く僕もまた、似たような声音だったのかもしれない。誰もいない夢のなか、それを確かめられるのは夜闇に潜む虫たちだけだった。