【SS】おでん屋台にて

※カラ松は出ない

 古馴染みである松野家の六つ子は基本的に集団行動をしているが、思い立ってばらばらに行動することもある。今日は一人の気分だからとか、そういう理由で。
 ぺたんぺたんとスリッパのしなる音がして、暖簾を潜って姿を現すのは見慣れた黄色だ。珍しいなと声をかければ、ぽかりと開いた口の端が僅かに上がった。
「うん!聞きたいことがあって」
「おうおうなんでい何でも聞きな」
 こいつの好きな種は何だったか。何でもうまいうまいと食うからこっそり新作も混ぜてやったりしているのだが、それにも気づいていないようでいつも同じようにうまいと言う。
「猫、飼ってたよね? 最近元気?」
「あー、あの、悪い猫な! ……3年くらい前かな?見送ってやったよ」
 3年くらい、と言ったが正しくは3年と2ヶ月前になる。その日の天気も覚えている。屋台を引きずって駆け足で帰ったことも。
 びたりと十四松の表情が固まる。珍しいものを見たような気持ちになって、視線を手元のおでんに移した。くつくつと煮えている、自らの愛の結晶である。
「あー、えと、オクヤミ」
「おう、ありがとな」
 十四松でも困るんだな、と思いながらおでんのおかわりをよそってやる。覚えていてくれたことへの礼のようなものだ。焼酎と日本酒どっちが好きだったか忘れた。おそ松は日本酒よりビールに喜ぶ。
 ゴン太は、元々飼われていた猫で、引越しのときに置き去りにされて以来人間を信用せず悪さばかりするひどい猫だった。たったひとり、という境遇が幼いながら自分に似ているように思えて引き取ったのが既に10年以上前のことになる。
「体格も立派だったし……恐竜みたいだったわ、骨」
 酒を煽りながら、子供のように恐竜と繰り返す目の前の男は目を丸くしている。猫と恐竜はすぐ結びつきやしないだろう。俺も泣くつもりだったのに目の前に恐竜みたいな骨が出てきて驚いた。
「ゴツくてさ、尻尾まで残ってた、普通灰になるんだと」
「へえー」
 再びおかわりである。そして暫くの無言の後、伸びた袖で包んだグラスに落とすように、ぽつりとカラ松兄さんも恐竜みたいな骨かなあなんてあいつは言った。
「え……なに、カラ松死んだ?」
「死んでないよ、元気! 後から来る」
 なるほど、一人できたというよりは待ち合わせにこの屋台を使ったらしい。一瞬血の気が引いたのは、いつかの誘拐事件を思い出したからだ。通報でもされれば逮捕だろうが、生憎それすらなかったようでこうして今だ屋台をしているし、カラ松も日常に戻っていっている。
「お前な、想像で兄貴殺すんじゃねえよ」
「残ったらその骨、ひとかけら俺もらって、化石になるまで大事にすんのに!」
 カラ松が長生きできるようにあとでおでんを腹いっぱい食わせてやろうと思った。その声が割りと本気だったから。

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