【FGO】冬が嫌いな岡田の話

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 冬が嫌いだ。
 気配は消せても、吐く息の白さは変えられない。かじかむ指先は剣を持つ手を一瞬遅らせる。何より、呼吸がしづらくなるのが憎い。己の腕を鈍らせる寒さがとにかく嫌だった。
 人間であった頃は、酒を飲んでごまかしていた。自分の体すべてがどくどくと脈打っように熱くなって、なんでも斬れるような気になったものだ。いや、実際斬ったこともあったかもしれない。
 英霊という身になった今では、どうか。
 酒に酔おうと思えば酔えるが、そもそも寒さを感じることが少なくなった。全く感じないわけではないが、マスターよりは多少ましという程度だ。
 白銀の世界はもうすぐ消えてしまう世界だという。ここで何があったのか、マスターである少女は語ろうとしない。記録を見ることもできるが、そこまでする理由もなかった。
 時折訪れては、マスターが関わったという小さな戦の後始末をする。例えばもう使わない兵器の無効化、例えば生存者の確認といった具合に。マスターに乞われてここにいる己には、退屈な世界であった。
「冷やいのう……酒飲んだらいかんがか?」
「以蔵さん酔ってても大砲使えるの?」
 コートの内側に腕を潜らせ、首をひねる。確かに砲術を教わったことはある。身についているかというと話は別だが。
「兵器の処理ゆうのは初耳じゃ」
「うん、大砲の弾がね……全部処理したと思ったんだけどな」
 大砲は狩りに使えないし、採掘に使えるほどの量があるわけでもない。結果としてどこかの道をふさぐ木を倒すのに使おう、ということになったらしい。
 マスターはお酒は禁止と言い添えてまっすぐに歩き続ける。肩のあたりを燈の髪がふわふわと揺れる。華奢な身体だ。吹いたら飛ばされそうなくらい。大砲の弾が当たったら吹き飛ぶくらい。
「どういて、こがな場所気にしゆうが? おまんにはもう関係ないろう」
「関係ない……?」
 しゃんと伸びていた背中が、橙の髪が、頼りなげに俯いた。年齢らしい弱さを、使い魔と主という関係だからか守ってやらねばと思ってしまう。そっと肩に手をおく。手のひらからは、冷えた布の感触しか感じられない。
「関係ないことなんて、ないよ」
 自分を見上げる目は、静かに燃えている。守ってやろうだなんて見誤ったか、と苦笑する。肩に置いた手に重ねるように、マスターの手が触れる。そこには人間の熱があった。暖かいを通り越して、熱く感じるほどの。
「以蔵さん、手が冷たいね」
「……おまんが熱すぎるんじゃ」
 冷たい、冷たい、と言いながらマスターは自分の手を握る。マスターの手のひらから熱を奪い、冷えた手が温まっていく。
「もう少しだから、がんばって」
 まるで子供をあやすような口調で有められ、温まってきた手を引かれながら雪道を行く。遠く、大砲がでんと道の真ん中に置かれているのが見えた。今日の目的はもうすぐ果たせそうだ。あと僅かであるのに、繋いだ手がほどけない。
 冬が嫌いだ。けれど、この熱はいつでも恋しい。

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