なんじゃあ、とわたしの後ろで以蔵さんが呻く声がする。驚くのも無理はない、チェイテピラミッド姫路城というのはそういうものだ。
「こがなもんを登ったんか、おまん」
「シンシンさんが背負ってくれて、上まで」
「ほおー……ようやるのう……で、わしの仕事は?」
以蔵さんは然程興味も示さず、仕事へと取り掛かる。仕事はちゃんとする、と言う本人の弁は、こういうところでよく発揮されるのだった。
メカエリチャンに下されたミッションのクリアには、チェイテピラミッド姫路城を隅々まで巡り、一定数の戦闘回数をこなすことが求められていた。限られた時間で効率を考えながらこの広い城を歩き回るというのは、ちょっとした苦行だった。
「古井戸と地下工場、玄室に天守閣、それと屋根の上……」
「……広いのう、そいたら地下から行かんか? まだ歩けるろう」
「うん、歩ける!」
以蔵さんはそうか、と言ってわたしを置いて地下へと続く道へ歩き出す。わたしは置いていかれないようにと慌てて走り、その一歩目で何か大きな……なんというか、メカメカしいパーツを踏み……おもむろに転んだ。
「ふぎゃっ」
「何をしちゅうがか? しっかりせいよ」
顔から行ったとか、流石にダサいとか、そんなことは言っていられない。以蔵さんが半ば呆れながら言った一言にうなづきながら立ち上がろうとした瞬間、足首に痛みが走った。
「……以蔵さん、手貸して」
「立てんのか」
子供か、と半笑いの以蔵さんがわたしの顔を見てすっと真顔に戻る。表情がないと少し怖い顔だな、なんて思っていたらわたしの前に以蔵さんがしゃがみこんだ。
「負ぶっちゃる、乗れ」
「歩けるよ、多分」
「無理しなや、カルデア帰るきマシュに連絡せい」
以蔵さんは譲る気がないらしく、わたしの前からぴたりとも動かない。足の痛みはじわじわと広がってきた。この状態で指揮を取るのは難儀だろう。そう思えば、今はカルデアに帰るのが優先だ。
「……それじゃ、その、お願いします」
そろそろと腕を伸ばし、以蔵さんの背中に体重を預ける。痛む足に触れないように体を支えてくれる以蔵さんは、なんというか、お兄さんのようだった。「わしだってこれくらい安いもんじゃき」
「……シンシンに張り合ってるの?」
わかりやすく、以蔵さんの言葉も足もぴたりと止まった。
「……護衛も何でも、おまんのためにしちゅうきの。わしを連れていかんから悪い」
ぼそぼそと言い訳をする以蔵さんの耳は仄かに赤い。照れているのか、恥ずかしがっているのか、どちらかわからないけれど、なんとなく愉快だ。
「以蔵さん、わたしの護衛してくれてるよ、今」
「おん、カルデアに戻ったら褒美は弾めよ」
ご褒美は新しい仕事、といっても許してくれそうな気がする。カルデアとの通信をしながら、以蔵さんの背中でわたしはひっそりと笑った。
【FGO】チェイテピラミッド姫路城in岡田
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