【UT】パピルスがサンズに「働かないの?」と言う話

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幸福の定義というのは何だろう。
 毎日あたたかな布団で眠れることだろうか。身近な友人がいることだろうか。それとも、陰鬱とした日々をぶち壊す英雄が現れ、あっという間に今まで積み重なっていた嫌なことを片付けてくれることだろうか。
「兄ちゃんッ、そこに寝てると邪魔!」
 ゴーゴー唸る掃除機にたたき起こされるのは幸福とは違う気がする。とにかくソファーで眠っているのはいけないことらしい、上体を起こしてぼりぼりと頬骨を欠けば白い破片が床に落ちた。
 破片が落ちた端から、即座に掃除機に吸い込まれていく。生きていれば骨の細胞だって入れ替わる。古くなった表面から削れて落ちるのは当然のことだ。
「ソファーが俺様たちのパウダーでいっぱいになってしまうだろう」
 ゴー、と轟音を立てながらソファーが掃除機に蹂躙されていく。埃っぽい匂い、微かな骨の匂いは兄弟二人分だ。
「全く兄ちゃんは俺様がいないとソファーから降りることもしない……俺様がいなくっちゃこの家は今頃廃墟だぞ?」
「廃墟か」
 想像してみる。パピルスがいない家は、きっと静かで冷え冷えとしているだろう。掃除もしなければテレビもつけないし、ペットロックにエサが与えられることもない。それは殆ど廃墟と言って差し支えない。
「兄ちゃん?」
 不穏な沈黙に感じたのか、パピルスは掃除機の電源を落とした。何もそこまで気にしなくて良いだろうに、兄弟は俺の気持ちを慮るいいヤツだ。
「廃墟になるのは困るからな、これからも兄弟には骨身を惜しまず働いてもらおうと思って」
 スケルトンだけに、とウィンクひとつ飛ばせば兄弟はがっくりと肩を落とした。なんなら掃除機が床に力なく倒れもした。
「兄ちゃんも何かしたらいいのに……仕事。アンダインに何か聞いてみる?」
「おいおい、オイラは重労働は向いてないぜ?」
 何しろ骨だから簡単に折れてしまうし、というオチを待たずに兄弟は俺の目を真っ直ぐに見つめた。
「だって家の中にずっといるなんて、つまらなくない?」
 俺様、最近アンダインとロイヤルガードの特訓をするのが楽しいから、兄ちゃんにもそういうのがあればと思って。
 ぱちぱちと瞬きをする。兄弟の言葉に嘘はない。心からそう思ってくれているのはがわかると、つい笑みが零れた。
「じゃあオイラも何かしようかね、何が向いてると思う?」
「えー、何だろうなあ!」
 嬉々としていろいろな職をあげるパピルスの声を聞きながら再びソファーに横たわった。面倒を見てくれる大切な兄弟がいるというのもきっと、幸福の一つの形なのだろうと思いながら。

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