男は新聞を見つめていた。帝都はいつ行っても真夜中なのに、カフェに入ると窓際からは朝日が差し込んでいて、テーブルにはいつのものかわからない朝刊が置かれている。目前にいる男――岡田以蔵は、それを見てにたりと笑っていた。
「以蔵さん、顔が残念だよ」
「なんじゃあおまん、人の顔見て残念ちゃ失礼な」
この喫茶店は珈琲も良いけど紅茶もおすすめだとか、お給仕のお姉さんがおすすめしてくれる茶菓子がどれも美味しいだとか、そういう話をしたいのだが彼は自らの『成果』を確認するのに忙しいらしい。
わたしは外に視線を投げる。重たいため息が口から漏れ、何とも憂鬱だ。この憂鬱さは梅雨時のそれに似ている。帝都はいつも薄ら陰っているけれど、もしかして時折雨でも降っているのだろうか。
「えいやろ、わしゃあ仕事も出来る男じゃからな」
「はいはい剣の天才で無敵の岡田以蔵さん」
以蔵さんは半分呆れた顔をして新聞を畳み、テーブルの上に放り投げた。小さな記事だ。聖杯戦争開幕という大きい見出しでかき消されそうなほど。
「……どういて怒りゆうが?」
拗ねているだけだ。そんな小さな記事、誰に頼まれたとも知れない『仕事』で満足するより、わたしともっと、何というか、あるではないか。
「……いいですか、喫茶店です。お喋りをしたいんです」
「わしと話して楽しいがか?」
楽しい。だから、放っておかれているのはイヤなのだ。たとえ新聞を読む横顔に浮かぶ薄い笑みで腹の底が冷えたとしても。
【FGO】帝都、喫茶にて
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