「お前、夜、眠らないんじゃなくて眠れないんだろう」
今日は満月、カンテラの明かりだけで手紙を読むには十分だ。俺がそうきり出せば、自称夜の主は楽しげに眼を細めた。
なぜそう思う、とわざわざ聞いてもこないところが厭らしくて、たまらなく不愉快だった。
「よくわかったな、市松」
「……一応聞いてやるけど、何で?」
「物騒な夢を見るからだ」
唐松は近くのものを見るときに眼鏡をする。丸くて大きい眼鏡だ。手元にタイプライターで打たれた手紙がある。どうやら彼の兄から来たものらしく、それを追う目は柔らかく優しい。
「今まで不幸にした人たちが、次から次と出てきて……」
手紙をめくる。二枚目だ。文字が読めないから、何て書いてあるかはわからない。唐松も表情を変えない。
「絶望して死ね!」
読み終えたらしい手紙はぐしゃりと握りつぶされ、夜に響くには十分な大声を出すものだから、思わず肩が跳ねた。
どっどっとうるさい胸を抑えながら睨みつければ、どこまで本当かわかりづらい主はからからと笑う。
「延々そんなことを言われるから、面倒で」
「その中に、俺の顔もあるんだろ」
「あるとも、先頭だ」
潰れた手紙は丸めて床に放られる。部屋はゴミ箱じゃないって何度言えばわかるんだろうこの坊々。誰が掃除をすると思ってんだ。
「別に、俺はあんたを殺したいなんて、思わないから」
思い通りになるのが嫌だ、というのが強い。
唐松が眼鏡を外す。カンテラの中、灯りを消して部屋は月光で照らされた。
「夢の話だからな」
それが怖くて眠れないくせに。
【松】夜の談合(42/ジェイカラ)
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