※カルデアから逃避行の話
軒先にぶらさがったつららを折り、水の張った庭先の池に放った。噴水を模し たオブジェに当たり、つららはあっという間に砕け散る。氷の破片が跳ねて、頬 に当たった。
「ばぁたれ、目ん玉に当たったらどうするが!」
瞬間、身を隠していた以蔵さんがわたしの顔をがっしと掴み、荒々しい手つき で撫でられる。金眼が気をつけろと睨むものだから、わたしは少し笑ってしまった。
「昔ね、いたずらで変な手紙が届いて。池の上で燃やしたことがあるの」
「水場じゃよう燃えんじゃろ」
「うん、紙のまま沈んでいっちゃった」
意味のない会話をする。本当にずっと昔のことだ、手紙の内容も覚えていない。 ただ、火を一人で扱ったのを叱られたことだけは覚えている。
「わしに言え、次から」
「うん」
以蔵さんは頼りになるねと言えば、照れた顔で小さく頬をかいている。感謝に弱いのだなというのは、もうわかっている。 カルデアに戻るよう書かれた手紙がポケットにある。差出人はマシュでもなく、 協会でもない。戻れない場所から来た手紙なら、燃やしてもいいはずだ。
「……早速お願いしてもいいかな」
「わかった、わしに任せちょけ!」
以蔵さんは、わたしを疑わない。