次に会えるのはいつになるだろう、と小さく呟いた。カルデアはもはや自分たちの手になく、これから先は尋問尋問尋問の繰り返しだ。故郷に帰れるかどうかすらわからない日々を過ごすのはさすがに不安だが、後輩の背中を思い出せば仕方がないと自然に背 筋が伸びた。
12月の末、もうすぐ新しい年がやってくる。明日は晴れるらしく、いつもより吹雪 が弱い。薄い雲の上に月の光が見えるほどだ。
「よう飽きんのう、こんなくらあ〜い場所におって」
「……以蔵さん、まだ起きてたんですか?」
「ちいとな、別れの酒よ」
以蔵さんは赤い顔をして、おちょこを傾けるそぶりをした。ご機嫌らしい。わたしは 眠気が来なくて、ただ廊下にぼんやりと立っていた。
自分を心配する一部のサーヴァントは、まだここに残っている。だが、きっと長くはないだろう。いつまでもこたつに入ってぐだぐだしていたいのだが、人理が救われた以 上、現代の秩序によって自分たちは裁かれなければならない。
「おまんとも飲めらあ良かったが」
「………おとなだったら、飲めたんですけど」
大人だったら。大人だったら、もっと早く人理を救えただろうか。もっともっと多く の人を苦しませずに済んだだろうか。レイシフトした先であったことも、もっと何とか 出来たんだろうか。
「そいたら、乾杯のふりだけしちゃあくれんか?」
「ふり?」
「次に会えるかどうかなんてわからんぜよ、やき今じゃ」
以蔵さんの目は、かけらも酔ってなんかいなかった。ああ、この人も私の前から去っ て行くのだと思った。当然なのだが、やはり寂しい。
「わかった、乾杯」
手を杯に見立てて、互いの指をぶつけ合う。以蔵さんはご機嫌に杯を飲み干す真似を して、そのままぐいとわたしを抱き寄せてきた。寝間着越しに感じる高い体温に、さす がにぎょっとする。何、と瞬間的に腕を突っ張ったけれど、当然以蔵さんの力には叶わない。
「達者で暮らせよ、次におうたらわしと朝まで酒じゃき忘れんなや」
「うん……次に会える日が待ち遠しいよ」
次は、きっとない。わたしは嘘を吐いた。以蔵さんは、怒らなかった。